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セパレート・リアリティー

フリークライミングのルートの命名

「セパレート・リアリティー」
これは、アメリカ・カリフォルニアのヨセミテ国立公園にある、あるフリークライミングのルートの名前です。
無理に訳せば「分断された真実」もしくは「引き裂かれた現実」とでもいえますか・・・。
とにかく、ぼくはこのルートがのぼりたかった。
アメリカのあるクライミング雑誌に紹介されたこのルートは本当に衝撃的でした。
高度感たっぷりの場所にあるこのルートの核心は、数ピッチの最後にあって見上げれば
まるで大きな屋根裏を下から見上げているようなオーバーハングに、一本のクラック(割れ目)が
入っていています。張り出しは10m近くに及び、クライマーはそのクラックに下から手を突っ込み
ジャミング(握りこぶしを作って抜けなくする)しながら、完全にぶら下がり、逆さまになって
その屋根裏を越えていく・・・・・そんなルートです。(言葉では表現しにくい・・・)
とにかく、重力に完全に逆らい、動き出したらもう後戻りできないリスクをはらんだこのルートを
写真で見たときからアドレナリン出まくり状態になったのでした。
そして、その名前です。
なんとも、意味ありげな命名。
ぼくの脳裏に、その「深い」ルート名と一枚の衝撃的写真はしっかりと焼きついたのでした。

クライミングの世界では、初登した人がそのルートを命名できるという暗黙のルールがあります。
だからその命名にはその人の個性が滲み出て、とても面白い。
「蜘蛛の糸」「天使の階段」「カリフォルニア・ドリーム」「ソロ・ダンサー」・・・・これらも日本にある
その頃開拓されたルートの名前です。
ぼくが開拓したルートもあります。
「アダム」「イブ」「ノアの箱舟」「ハッとしてグー」(なんだか恥ずかしい・・)などなど・・・。
でも、「アダム」や「イブ」なんかは今でもフィンガークラックのスタンダードとして登られていいます。

ある日訪れた栄町のアウトドアショップ。
そこにこの地方のフリークライミングのルート写真がいくつか飾られていました。
そのひとつを、熱心に、懐かしく見入っていると店員の方が声をかけてきました。
「フリークライミングされるんですか?その写真いいでしょう。イブっていいましてね。人気のあるルートなんです」
なんだか嬉しくて、嬉しすぎて涙がでそうになっちゃいました。
もう30年も前に開拓したルートなのです。
でも、名乗るのには、あまりに「時」が経ち、自分が変わってしまっていて、心が臆しました。
それでも、こうして、自分の足跡がレアーな世界にしろ残っていることを確かめられたことは
幸せなことでした。

そして、「セパレート・リアリティー」。
1984年4月。このルートを一番の目標にヨセミテ入りしました。
5.11dとグレードされる、このルートに臨むこと3回・・・・・。
結局、最後の2mが越せずに、ぼくの「リアリティー」は終わりました。
登れなかったことが「リアル」で、それによって随分と落ち込み、ぼくの儚い自信は「分断」されたのでした。

それにしても「美しい」ルートです。
そして、「深い」名前です。

by tradewind6131 | 2006-10-25 23:59 | 好きなこと大切なこと  

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